シークレット・オブ・モンスターには原作がある?
内容や作者についてご紹介

2015年に公開された心理ミステリーの傑作「シークレット・オブ・モンスター」。

かつて実在した数多の独裁者を思い起こさせるストーリーが印象的な本作ですが…

実は、原作となる小説が存在するのはご存知でしょうか?

シークレット・オブ・モンスターは、ジャン=ポール・サルトル氏の短編小説「一指導者の幼年時代」を原案としており、大まかなプロットはここから着想を得たと言われています。

哲学者としても著名なサルトルの小説を下敷きにしたとあれば、作品の中に氏の影響を見出したくなるのは無理のないこと。

ストーリーは原作から大きく変更されていますが、映画全体にただよう雰囲気や、両親の不倫を端緒とする物語運びなど、現にサルトルの影響を思わせる部分は数多く残されています。

そこでこのページでは、シークレット・オブ・モンスターの原作「一指導者の幼年時代」や、その作者について詳しく紹介していきます。

サルトル氏の略歴

サルトル氏の原作はかなり難解で、読み解くためには彼の思想について理解する必要があるため、ここではまず氏の生涯について触れていきます。

ジャン=ポール・サルトルは1905年のパリに生を受けましたが、生後15か月で父を亡くし、教授であった祖父の家に引き取られました。

幼少期に関する記録はあまり多くありませんが、母親の再婚に伴い引越しがあったこと、引っ越し先の学校にうまく溶け込めなかったこと、そこで失恋し自身を醜いと感じるようになったことなどが知られています。

母親の再婚が数々の「失敗」の遠因となっているところなど、まさに「シークレット・オブ・モンスター」的だと言えるのではないでしょうか。

祖父の影響もあって成績優秀だったサルトルは1929年、アグレガシオンと呼ばれる教員資格試験に主席で合格し、高等中学校の哲学科教師となりました。

同年の試験でサルトルに次ぐ成績を収めたシモーヌ・ド・ボーヴォワールとはその後生涯を共にすることになるのですが、サルトルとボーヴォワールの関係は今でいう契約結婚

婚姻の契約も子供を持つことも拒否したばかりか、互いの自由恋愛さえ認めた関係は、サルトルが亡くなるまで続いたといいます。

当時の価値観でいえばかなり破天荒な両者の関係ですが、これは二人の哲学的立場「実存主義」に基づくもの。

ここからは、サルトルの「実存主義」についてごく軽く、なるべく分かり易いように触れていきたいと思います。

「実存は本質に先立つ」とは?

サルトルは自らの思想について「実存は本質に先立つ」という言葉を使って表現しています。

「実存」「本質」という言葉はそれぞれ哲学的な意味があるのですが…

ここでは簡単に

「あらゆるものは、神様などから『お前の本質はこうだ』と決められる前に、現実に存在している」

という意味だとしておきましょう。

このあたりはかなり無神論的な考えで、最終的に反キリスト教的な思想に至ったプレスコット君にこの面影を感じることができますね。

さて、一見難解なようにも、逆にごく当たり前なようにも見えるこの主張ですが、この考え方を人間に当てはめると

「人間は、だれからも本質を決められていない(つまり、自分自身で自分の本質を決めなければいけない)」

と読めるのがポイント。

シークレット・オブ・モンスターの主人公プレスコットは、果たして自分の生き方を自分で決められたといえるのかどうか、ちょっと複雑な気分になりますね。

映画と原作の共通点・相違点

さて、そんな思想が色濃くあらわれたサルトルの小説「一指導者の幼年時代」は、1938年に公開されました。

日本では、新潮文庫から発刊された短編集「水入らず」で読むことができます。

「一指導者の幼年時代」に限らず、この時期のサルトルに通底するのは、登場人物が人間の身体をある種の異物のように扱う感覚。

自分がどう生きるべきかさえ定かでないのに、身体はすでにモノとしてここにある、という事実の奇妙さを強調するかのように、ひとの性愛が「モノとモノとの奇妙なぶつかり合い」のように気味悪く書かれることが多くなっています。

シークレット・オブ・モンスターにおいては、両親の関係に嫌悪感を抱いていたであろうプレスコットに、このあたりの思想が反映されていそうですね。

さて、シークレット・オブ・モンスターでは物語の構造上、プレスコットの内面についてはほとんど描かれませんでしたが、「一指導者の幼年時代」はその大半が主人公のモノローグで進行します。

ストーリーについてなるべく簡単に述べれば、リュシアンという主人公がさまざまな種類の空想遊びにふけりながら、自分の「本質」をどう定めるべきか探る、という内容です。

これは、母の不倫という「外の出来事」をきっかけに独裁者となったプレスコットとはかなり対照的なようにも見えますが…

プレスコットは、映画に描かれる前からすでに、自分の本質を強固に決めていたのではないか、と考えることもできますね。

シークレット・オブ・モンスターをより深く知るために

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

映画「シークレット・オブ・モンスター」の原作や原作者の情報、またそれらが本作におよぼしたであろう影響について紹介させて頂きました。

このページが、「シークレット・オブ・モンスター」をより深く考察する為の助けになったなら嬉しく思います。

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